プロローグ

「お疲れさまでした。お先に失礼します」
「おつかれー。気を付けてね」
バイト先の社員さんに挨拶をし、帰路につく。


俺はサッカー選手になるんだ!

そう思っていたのは15年前までだろうか。小中高とサッカーを続けてきたが、中学1年生の時にはもう自分はサッカー選手にはなることができないとわかっていた。
それでもサッカーを続けたのは好きだからというほかない。サッカーの神様に愛されなくても、愛することはできる。なんて格好いいこと考えている自分が恥ずかしい。

結局やりたいことが見つからずに30歳になってしまった。いまだにフリーターをしている。夢を持たないフリーターなんて悲しすぎる。何かやらないとなー。

そんなことを考えながら歩いていると、突然俺の耳を爆音のクラクションが襲った。
慌てて前に目をやると、超スピードで俺の方に向かってくるトラックが見えた。

 


俺はトラックに跳ね飛ばされ、意識を失った。

 

 

目覚めると、金髪の若い女性が俺をのぞき込んでいた。
「やっと目が覚めたの。あまーり兄さん」
その女性は俺に向かって話しかける。
「早くしないと会見が始まってしまいますよ。ほら立って立って!」
「すみませんが、ここはどこですか?」
「何言っているの。早く準備して」
「すみません。本当にわからないんです」
女性は困惑した顔で俺の方を見た。
「本当にわからないの?」
「すみません。本当に何もかもがわからないんです」
「わかったよ。1から説明するね」

 

結論から言うと俺はどうやら転生してしまったようだ。それもサッカー監督として。
イングランドリーグの3部、スカンソープユナイテッドに昨日就任が決定したそうだ。

 

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俺自身は名前も性別も変わっていない。どうやら俺がサッカー監督になっているパラレルワールドみたいだ。
携帯の連絡先を確認してみたところ知っている名前だらけだったので限りなく現実に近い世界みたいだ。

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ただ、俺は今目の前にいる金髪の女性を知らない。
「ところであなたのお名前は教えてもらってもいいですか」
「私?本当に覚えていないの?」
「すみません。残念ながら」
「そっか⋯。それじゃあ自己紹介を。私はあまーり兄さんの妹のエフエムです」
「妹!え⋯え⋯俺に妹なんていなかったはずなんだけど」
「前の世界ではいなかった、今いる世界ではいる。ただそれだけのことだよ。あと敬語もやめてね。ちょっと悲しくなるから」
「あ、ごめん。そうだそうだ、お前は妹だよな!俺が世界で一番愛している妹だ!」
「それはちょっと気持ち悪いんだけど。まあいいや、あまーり兄さんは違う世界から来たってことだよね!」
「理解が早くて助かる。正直俺もまだ把握しきれていないからな」
「まあだてにラノベ読んでないからね」

 

妹が欲しかった俺としては最高にうれしい展開なんだけど。

「ところで、お前の知っているもともといた俺は、どんな人だったの?」
「さいてーのくず人間だよ」
「え⋯」
「私をおもちゃみたいに扱って、いろんな人をだましてきた心の底から憎んでいた人だよ」
「そんな人だったのか⋯」
「だから正直入れ替わってくれてラッキーていうか、全然気にしてないから。私は今のあまーり兄さんの方が好きだよ」
「おう⋯そうか。ありがとう」
「あまーり兄さんの口から感謝の言葉が出るなんて⋯」

 

エフエムがありがとうと口にした俺に感激している。
前の世界の俺は感謝も口にできない男だったのか。やはりくずだ。

 

「ところで本当にあまーり兄さんは監督を引き受けるの?」
「ああ。せっかくのチャンスだ。こんな機会逃したら神様も怒り狂うよ」

元の世界に未練がないと言ったらうそになるが、正直この世界はとても魅力的だ。
サッカー監督になれて、さらにかわいい妹までついてくる。それならこの世界で頑張るしかないじゃないか。

 

「これからもよろしく頼むよ。エフエム」
「はい。あまーり兄さん」